子供の頃からたくさんの漫画を読んでいますが、「漫画を読んで泣いた」っていう記憶はほとんどないんですよね~。
ただ、本作「空のキャンバス」だけは、少年時代に号泣した記憶が鮮明に残っている作品です。
恐らく作者の今泉先生もそれを狙って本作を描いていたんでしょうが、見事にその策略にはまってしまったわけですね~。
今回は、そんなジャンプ史に残る泣ける名作マンガ「空のキャンバス」を取り上げて紹介します。
空のキャンバスの作品データ
【作品概要】
当時としては珍しい「体操競技」を題材にした作品。
主人公である少年が、自らの障害を克服し体操競技に打ち込む姿が描かれています。
【作品データ】
作品名 | 空のキャンバス |
作者 | 今泉伸二 |
連載誌 | 週刊少年ジャンプ(集英社) |
連載期間 | 1986年(昭和61年)~1987年(昭和62年) |
単行本 | 全7巻 |
電子書籍 | あり |
空のキャンバスのストーリー&主人公
本作「空のキャンバス」のストーリーは、主人公である北野太一(きたの たいち・中学生)の幼少時代の思い出からスタート。
ガキ大将だった太一くんは、地元の公園で「ムーンサルト(二回宙返り一回ひねり)」ができる同い年くらいの少年に出会います。
ムーンサルトは、別名「月面宙返り」とも呼ばれる有名な体操の技の1つ。
この少年は、物心ついた時からオリンピックを目指して体操競技をしているのです。
自慢げにムーンサルトを見せつけるその子に対抗しようと太一くんも試みますが、普通の子供がどうやったってムーンサルトなどできるはずがありません。
しかし頑張り屋の彼は、毎日毎日ムーンサルトの練習を繰り返します。
そんな折。
些細なことで二人はケンカをしてしまいます。
太一くんに追いかけられたムーンサルトくんは、老朽化した橋の上に乗ってしまい転落…。
それを助けようとする太一。
ムーンサルト少年を抱えたまま落下した太一くんは、木の切り株に激突し背中に大怪我を負ってしまうのです。
ところが。
太一くんはそんな大怪我をしながらもムーンサルトくんにこう言い放つのでした。
「いつかキミよりすごい技をやって、勝ってみせる!」
その迫力に気圧されるムーンサルト少年でしたが、強く太一くん手を握り、約束することを誓います。
「その事を忘れるなよ…、男と男の約束だ!」
そして、そのまま太一くんは救急車で病院へ。
時は流れて7年後、中学生になった太一くんは男と男の約束を果たすべく、体操クラブの門を叩きます。
きっと体操を続けているはずの、あの日のムーンサルトくんに勝つために…。
と、ここまでが本作の第1話の内容。
ここで描かれている太一くんの思い出が本作の根幹となる部分であり、それは最後までブレずにストーリーの中心になります。
ただし、太一くんはかつてのムーンサルトの少年が誰なのか名前すら知りません。
ムーンサルトくんは、夏休みの間に親戚の家に遊びに来ていただけで、その後、二度と太一くんの前には現れなかったのです。
ですから「ムーンサルトくんは誰なのか?」、「果たして体操競技を続けているのか?」という点も本作の大きなポイントなのですが…。
実は前述した第1話で、ムーンサルトくんの正体も明らかになってしまいます。(もちろん、体操競技も続けています)
でも、太一くんはその正体に気付いていません。
そのため本作の興味は「いつ太一くんがムーンサルトくんの正体に気付くのか?」または「どのようにしてムーンサルトくんの正体が太一くんにバレるのか?」という点に集約されちゃうんですね。
これはちょっと失敗だったんじゃないかな、と思っています。
なぜなら、物語の第1話でこのような設定にしちゃうと。
作品的には「太一くんがムーンサルトくんの正体を知る = この漫画の終わり」になることが予想されるので。
それほど長くは続かないだろうなってことも予想できちゃうからです。
個人的には「よく7巻まで続けたな」というのが正直なところ。
もうちょっとコンパクトにスッキリまとめていたら、さらなる感動作として不朽の名作になっただろうなとは今でも思います。
しかし本作を「泣ける」名作漫画たらしめたのは、この設定があったからこそなのかもしれません。
空のキャンバスの惜しいポイント(ムダが多い)
先ほど「もうちょっとコンパクトにまとめれば…」という話をしました。
なぜこんなことを言ったかというとですね。
本作は、内容的にコミックス5巻以内で十分納まるストーリー構成だからなんです。
じゃあなんで7巻も続いたのかというと、理由は3つ。
- ムダなコメディーシーンが多いこと
- ムダなお色気シーンが多いこと
- ムダなキャラクターが多いこと
本編を読んでもらえれば判りますけど、とにかく「ムダなもの」が多い。
作者の今泉先生は本作が連載デビュー作でしたので、作品の方向性に迷っていたのでしょうか?
序盤はコメディー漫画かと思うくらいの作風で、お色気シーンも随所にちりばめられています。
おそらく作品の方向性が定まったのは中盤以降でしょう。
中盤から後半へ向かうほどシリアスな内容に変わっていきますので。
前章の【ストーリー&主人公】で触れたように、太一くんは少年時代に背中に大怪我を負ってしまいます。
そのせいで、体がマヒしたり呼吸困難に陥ったりする障害(後遺症)を患ってしまうのですね。
ですからそんな主人公の暗い設定を翻すために、あえて前半はコメディー調にしたのかもしれませんし。
低年齢層の読者受けを狙うため、このような作風にしたという部分もあるかもしれません。
読者アンケート至上主義の週刊少年ジャンプですし、さらに当時は「黄金期」で人気漫画が多かったですからね~。
また、キャラクターについて言うとこんな感じ。
- 太一くんの昔の友人として登場する「賢九労(けんくろう)」
- 太一くんのフィアンセとして登場する「蓼科沙織(たてしな さおり)」
- 物語の中盤で登場する「倉崎麗華(くらさき れいか)」
はい。
ハッキリ言って不要なキャラです。
ストーリーに深く関わってくるわけでもなく、本作の一番の見どころである号泣ポイントにも関わってこないので、彼らを登場させる必然性は全くありません。
今泉先生は泣ける(泣かせる)ストーリーがとても上手です。
なので、こういったムダな要素をなくして泣ける漫画に徹底的にこだわったほうが、もっと名作たり得る作品になったでしょう。
この辺りは、とても惜しいポイントとして紹介しておきます。
ただ、不要なものがあれば欠かせないものもあるように、本作を名作号泣漫画として成り立たせる重要なキャラクターも存在します。
ということで続いては、本作最大のおすすめポイントとして、その泣けるキャラクターを紹介していきます。
空のキャンバスのおすすめポイント①号泣キャラ(北野太一&赤城榛名)
まず紹介するのは、本作の主人公である北野太一くんご本人。
上でも触れたように、太一くんは少年時代に背中に大怪我を負ってしまいます。
そのせいで、体がマヒしたり呼吸困難に陥ったりする後遺症を患ってしまうことになります。
太一くんの背中の傷は完治する見込みがありません。
彼が体操選手として運動ができるのも奇跡と言っていいほどの大怪我だったのです。(本人には内緒)
しかし太一くん自身も、自分の怪我が完治しないことにはとっくの昔に気づいています。
中学生でありながら、いずれは自分の体が動かなくなってしまうかも…、もしかしたら命までも…、という事実を解ったうえで体操競技に打ち込んでいるんですね。
かつてのライバル(ムーンサルトの少年)に勝ちたいという想いだけで…。
そんな悲しい運命を背負っても、一途に体操競技に懸ける彼の姿がとても胸を打ちます。
自分の病状を他人に知らせることはせず、常に明るく前向きに人生と向き合っている、そんな少年なんです。
そして、それを支えるのが本作のヒロインである「赤城榛名(あかぎ はるな)」ちゃん。
榛名ちゃんは、太一くんが通う体操クラブのコーチの娘さんであり、女子体操競技のジュニアチャンピオンでもあります。(太一くんと同い年)
当初はお互い気になる存在でありながらも素直になれず、いがみ合っていた二人。
ですが、榛名ちゃんが太一くんの本当の病状を知ってからは、二人の心の距離がグンと近づくことになります。
ちなみに榛名ちゃんは、ムーンサルト少年の正体も知っていますよ。(太一くんには内緒)
作中、太一くんには様々な悲劇が襲い掛かります。
体操の練習中に呼吸困難に襲われたり。
競技会中に体が動かなくなったり。
挙句の果てには、主治医に勧められて行った大手術のあと記憶喪失になってしまったり。
こうした悲劇に見舞われながらも、持ち前の前向きさとムーンサルトの少年との約束を果たすという想いで困難を克服していく太一くん。
それを陰に日向に支える榛名ちゃん。
この二人の姿も感動するので、まぁ泣ける人は泣けるでしょう…。
でも!
この二人に関する1番の泣き所は、そこではありません。
この漫画の主人公とヒロインに関する1番の泣き所は、2人の「愛」にあります。
※ まぁまだ「中学生」なんですけども、そこは無視しましょう。
太一くんは自分の病状を把握しており、いずれは自分の体が動かなくなること、何歳まで生きられるか分からないことも理解しています。(これは手術後も変わりません)
そして、榛名ちゃんを愛していることも…。
一方の榛名ちゃんも、いつ太一くんの病状が悪化してもおかしくないこと、病状が悪化した場合には死んでしまう可能性があることを理解しています。
そして、太一くんを愛していることも…。
この二人のお互いを思いやる「愛」こそが、本作の大きな泣き所。
愛しているからこそ、心配させたくない・迷惑をかけたくないと考える太一くん。
自分が無理をして死んでしまったら一番悲しむのは榛名ちゃんだと解っていても。
男と男の約束(ムーンサルトの少年との約束)を果たしたい…。
対して、愛しているからこそ無理をせずに少しでも長生きをしてほしいと願う榛名ちゃん。
二人でずっと一緒にいたい。
でも太一くんの夢(ムーンサルトの少年に勝つこと)も叶えさせてあげたいというジレンマ…。
ですから本作を読む際には、太一くんと榛名ちゃんの切ない「愛」を理解したうえで、充分感情移入して読んでください。
そうすれば、ただでさえ切ない二人の愛が、より一層涙腺を緩くさせてくれるでしょう。
さらに、愛の行方がどうなるのか?
ムーンサルトくんとの約束はどうなるのか?
を抱えたまま感動のラストを迎えることになりますので、最後まで泣きっぱなしだと思いますよ。
空のキャンバスのおすすめポイント②号泣キャラ(あずさちゃん)
最後に紹介するのは「あずさちゃん(苗字不明)」という1人の女の子。
あずさちゃんは、ある病気により太一くんが通う病院に入院している少女で、太一くんの大切な友達です。
実は、彼女は「空のキャンバス = あずさちゃん」と言われるくらい有名なキャラクターでして、我々に愛と感動と奇跡のエピソードを提供してくれます。
コミックスで言うと第3巻から登場。
ただし。
彼女に関するエピソードについてはここでは詳しく解説しません。
なぜなら、このあずさちゃんに関するエピソードが本作最大の号泣ポイントだからです。
事前情報なしでお読みいただいたほうがより泣けること間違いなしのキャラクター&エピソードなので、ぜひ本編で号泣してくださいね。
ということで少し長くなってしまいましたが、「空のキャンバス」のおすすめポイントをお伝えしてきました。
本作は作者である今泉先生の連載デビュー作でもあり、新人漫画家さんらしい「ちょっと迷走している部分」もありますが、ストーリーが進むほど面白くなっていく作品です。
また泣けるシーンも、前述したあずさちゃんの登場以後に描かれているものが多くなっています。
なので、もし本編をお読みになって序盤で「ちょっとつまらないな」と感じても、せめて第3巻からのあずさちゃんが登場するエピソードまではお読みください。
そうすれば本作に対する印象がガラッと変わると思います。
そして、感動のラストまで読み終えたあなたを、何とも言えない読後感が包み込むでしょう。
なお本作をお読みになる際には、手元にハンカチかティッシュをご用意されることを「強く」おすすめします。
さて、そんな本作「空のキャンバス」は電子書籍化されています。
わたしがふだん利用している電子書籍通販サイト
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