今回紹介する作品は、
「月館の殺人(つきだてのさつじん)」
というミステリー漫画。
日本を代表するミステリー作家
「綾辻行人」先生が原作を担当。
少女誌・青年誌で活躍される
「佐々木倫子」先生が作画を担当。
正直、このお二人の作品というだけで
「ハズレではない漫画」だと判りますね。
小説にはない「絵」という
漫画の特性を活かしたヒントも
随所に盛り込まれています。
それらも探しながら
犯人捜しを楽しんでください。
月館の殺人の作品データ
【作品概要】
有名作家と有名漫画家がタッグを組んだ
ミステリー漫画。
鉄道を題材にしていますが、
時刻表トリックのような
マニアックなミステリー作品ではありません。
イイ意味で、
「漫画としてのミステリー」を描いた良作です。
【作品データ】
作品名 | 月館の殺人(つきだてのさつじん) |
作者 | 作:綾辻行人、画:佐々木倫子 |
連載誌 | 月刊IKKI(小学館) |
連載期間 | 2004年(平成16年)~2006年(平成18年) |
単行本 | 全2巻 |
電子書籍 | あり |
月館の殺人のおすすめポイント(ストーリー&トリック)
それでは、本作「月館の殺人」のストーリーを
ネタバレなしで紹介します。
【ストーリー①】
沖縄に住む18歳の女子高生
雁ヶ谷 空海(かりがや そらみ)は、
幼い頃に父親を亡くし、
母親と二人で暮らしていました。
しかし、唯一の肉親であった母親も
2ヶ月前に他界…。
現在は一人で暮らしています。
高校卒業を控えた空海は、
自分の将来も定まらぬまま、
一人不安な毎日を過ごしているのでした。
本作の主人公は、沖縄に住むJK・空海ちゃん。
作中ではハッキリと描かれていませんが、
ちょっと天然でおっとりした性格だと思われます。
(©綾辻行人:佐々木倫子/月館の殺人)
「親御さんに大事に育てられたんだろうなぁ」
と見受けられる、そんな感じの女の子ですね。
沖縄で生まれ育った彼女は、
今まで一度も電車に乗ったことがありません。
この設定は、とても重要な意味を持ちます。
ま、殺人事件とは直接関係してきませんけど、
この設定は覚えておいてください。
【ストーリー②】
そんなある日。
空海ちゃんの元へ弁護士がやってきます。
中在家(なかざいけ)と名乗るその弁護士は、
北海道に住む空海の「母方の祖父」の依頼で
やってきたのでした。
母親から、
祖父・祖母はじめ親戚は全員亡くなっている
と聞いていた空海は驚いて、
その旨を弁護士に伝えます。
しかし、お母さんとお祖父ちゃんの間には、
深い「親子の溝」があったと聞かされ、
これまた驚く空海ちゃん。
そのため空海の母親は、
祖父の存在を隠していたのだと…。
弁護士が訪れた目的は、
財産相続の件で祖父が空海に会いたがっている、
ということを伝えるためでした。
いきなり財産相続と言われてもピンと来ない空海。
でも今となっては、たった一人の肉親である祖父。
その人に会ってみたいという気持ちは強く、
北海道へ行くことを決心します。
クリスマスが近づくころ、空海は北海道へ向かい、
物語の舞台は雪深い北国へ移るのでした。
(©綾辻行人:佐々木倫子/月館の殺人)
【ストーリー③】
新千歳空港へ降り立った空海は、
寒さと降り積もる雪に圧倒されながら、
中在家の運転で「稚瀬布(ちせっぷ)」
という駅へ向かいます。
そこで20時40分発の寝台特急
幻夜(げんや)に乗り、
お祖父さんの待つ「月館(つきだて)」へ
向かうことになっているのでした。
(到着時間は明朝7時)
ところが駅へ向かっている途中、
中在家の車が雪に突っ込んでしまい
身動きが取れなくなってしまいます。
そこへタイミングよく現れた
「日置健太郎(ひおき けんたろう)」
というイケメン。
彼の車に同乗させてもらい、
稚瀬布へ急ぐ空海ちゃん。
実は、この日置健太郎なるイケメンも、
寝台特急・幻夜の乗客だったのです。
(©綾辻行人:佐々木倫子/月館の殺人)
駅に着いた空海は、
初めて乗る電車にドキドキしながら
改札をくぐります。
すると、そこには…。
オリエント急行さながらの、
豪華な寝台列車が停車していました。
「これが、生まれて初めて乗る電車…。」
「これに乗って行けば、お祖父さまに会える。」
(©綾辻行人:佐々木倫子/月館の殺人)
【ストーリー④】
そんなことを考えながら
幻夜に乗り込んだ空海でしたが、
列車内に足を踏み入れた途端、
その豪華さと美しさに見惚れてしまいます。
見るもの全てが珍しく美しいものばかり。
キョロキョロしながら歩いていると…。
ブツブツ言いながらメモを取る
怪しい青年に出くわします。
次は時刻表を見ながら、ブツブツ呟く青年に。
そして、空海(女の子)を見て驚く
おじさん2人にも。
最後は、バーにある灰皿を失敬しようとする
小太りのメガネ男。
「なに…?この人たち…?」
寝台特急・幻夜の乗客は、
空海を含めて全部で7人でした。
(空海以外は全員男性)
何となく変な人たちだな、とは思いましたが、
初対面でズケズケ質問することもできず、
とりあえず食事の席に着く空海。
しかし、食事をしながら自己紹介をし、
バーへ移っておしゃべりをしているうちに、
彼女は気づいてしまったのです。
自分以外の6人は、
全員「テツ(鉄道マニア)」であると…。
(©綾辻行人:佐々木倫子/月館の殺人)
しかもその6人は、
みな空海の祖父に招待された客であること。
幻夜は祖父が借り切っているらしいこと。
そして、この6人の中から
空海の結婚相手を選ばなければならないこと、
にも気付くのでした。
(©綾辻行人:佐々木倫子/月館の殺人)
【ストーリー⑤】
その後しばらく、
テツたちの鉄道談義につきあわされた空海は、
疲れ果てて自分の部屋に戻ります。
でも、退屈なテツたちの話の中で、
興味を引かれたことが1つだけありました。
それは最近世間を騒がせている
「5件の連続殺人事件」。
彼らの話によると、
殺されたのは全員「テツ」。
現場には毎回犯人からのメッセージが
残されているのだとか。
しかし6人のうちに
事件の関係者がいるわけでもなく、
相も変わらぬ鉄道談義に辟易しながら
自室に戻って来たのでした。
今日はぐっすり寝ようと思ったものの、
なかなか寝付けない空海ちゃん。
母親が亡くなってから寝付きが悪くなった彼女は、
医師に処方してもらった睡眠薬を飲んで、
ようやく眠りにつきます。
子供の頃の出来事、
頭蓋骨の山、
誰かに追いかけられている自分、
今日あった出来事、
父親が亡くなった時のこと、
そしてドアを開ける青白い手など。
夢か現実か分からない感覚に襲われた空海は、
「ギャ~~!!」という悲鳴で、
現実世界に引き戻されます。
【ストーリー⑥】
時計を見ると午前4時31分。
悲鳴の元は、
1人のテツがどうでもイイようなことで
廊下で叫んでいる声でした。
理解できないテツの言動に
ボー然とする空海でしたが、
悲鳴を聞きつけて
他の乗客たちも部屋から出てきます。
そのうちの1人が「寒くて眠れない」
と言うので、辺りを見回してみると…。
ある部屋のドアから、
寒気が流れ込んでいるのが判りました。
その部屋を使っている乗客に文句を言おうと、
みんなでドアをノックします。
でも返事がありません。
仕方なく車掌のマスターキーを使って
ドアを開けることに。
すると、そこには…。
血だらけで横たわっている、
その部屋の乗客の姿があったのです。
(©綾辻行人:佐々木倫子/月館の殺人)
こうして第1の殺人事件が起こり、
物語は本編に突入していきます。
ここまでの内容は、
コミックス第1巻の終盤辺りまでのストーリーで、
本作のプロローグと言ってもイイでしょう。
ただ、プロローグにしては
かなり長めに描かれています。
その理由は、上記【ストーリー⑤】の
テツ(鉄道マニア)たちの話が非常に長いから。
(©綾辻行人:佐々木倫子/月館の殺人)
ミステリーは好きだけど、鉄道に興味はない
という読者にとっては、
ここを乗り切れるかどうかが、大きなポイント。
ま、鉄道好きな人にとっては、
共感できる部分だと思いますが…。
でも鉄道好きじゃない方も、
がんばって読み進めてください。
このプロローグの後、
本作はがぜん面白くなりますから。
ここから物語が急旋回するような感じになり、
実は、空海ちゃんが
「稚瀬布~月館へ、お祖父さまに会いに行く」
という旅そのものが
トリックであることが判明します。
実際にはトリックと言えるのかどうか微妙
なんですけど、
空海ちゃんとわれわれ読者にとっては、
トリックと言ってイイでしょう。
このトリックの内容は、
本記事を読んだだけでは分からないと思います。
だから、あえて書いちゃいました。
そして「誰が犯人か?」についても、
実はプロローグの部分に
ヒントが描かれているんです。
でもこれには…。
ちょっとしたブラフが仕掛けられていまして。
綾辻先生が原作を担当しているのですから、
考え過ぎると誤った方向へ導かれてしまう
ように出来ているんですね~。
漫画ならではの表現の仕方で、
こういった作りは流石だなと思わせてくれます。
このように、本作のミステリーとしての仕掛けは、
犯人捜し・トリック暴きだけに限らず、
その他の部分でも読者を楽しませてくれる
(驚かせてくれる)ように仕上げられています。
ですから、じっくり(食い入るように)
読み進めてヒントを探しても良いでしょうし、
一旦サラッと読んでから、再度読み直して、
本作のプロットを確認しても良いでしょう。
いずれにしろ、
全2巻という短いミステリー漫画です。
じっくり読んでも・読み返してみても
それほど時間は掛かりません。
あなたなりのミステリーの読み方で、
有名作家 + 有名漫画家のタッグ作品を楽しんで、
ズバリ犯人を当てちゃってくださいね。
(©綾辻行人:佐々木倫子/月館の殺人)
なお随所に、鉄道マニア垂涎だと思われる
描写があります。
なのでテツの方々は、謎解き以外でも
楽しめることを付け加えておきます。
そんな本作「月館の殺人」は
電子書籍化されています。
わたしがふだん利用している電子書籍通販サイト
ebookjapanで試し読みが可能。
「月館の殺人」に興味を持たれた方は、
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